大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所宮崎支部 昭和29年(ラ)6号 決定

抗告人 山田四郎

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人の本件抗告の趣旨は、原決定を取消す。分家無効により、○○市○○○通○丁目○○番地筆頭者山田四郎の戸籍全部を削除することを許可する。との裁判を求め、その抗告の理由の要旨は、抗告人は、もと、宮崎県○○○郡○○町大字○○○○○○番地戸主山田三郎の戸籍にいたが、昭和一九年一月二八日宮崎市役所に分家届を提出し、抗告人の現本籍地に新戸籍が編成せられた。しかし、右分家届は、戸主三郎の同意がないのにあたかも同意があつたように、申立人において勝手に書類を作成して届出でた無効の分家であつたから、宮崎家庭裁判所に対し、前記趣旨の審判を求めたところ、同庁では、抗告人の申立を却下する。との審判が為されたのである。しかして、原審判の却下の理由としては新民法の分籍が、戸籍法上の効果を生ずるに過ぎないのと異り、旧民法上の分家は、実体法上の身分関係に重要な影響をもつ身分行為であつたから、分家の無効を理由に戸籍を訂正する場合には、原則として確定判決を得て訂正を申請すべきである。ただ、当事者又は利害関係人において訂正について異議がないときは、戸籍法第一一四条の簡易な手続によることが許されるものと解する。ところが、戸籍謄本の記載によると、本件戸籍訂正により実体法上利害関係を有する戸主三郎は、昭和二八年三月一五日死亡し、戸籍訂正に異議があるか否かその意思を確かめる途がないので、右簡易な手続による戸籍訂正は許されない。とあるが、しかし、(一)家庭裁判所の審判と通常裁判所の確定判決とに優劣があるとは思われない。(二)現行民法上においては、抗告人が三郎の戸籍に復しても、戸籍法上の効果以上の効果を発生するものではない。(三)実体法上利害関係人は三郎だけではなく、その相続人も利害関係人というべきであるから、三郎の相続人の意見を確めた上、簡易手続により戸籍の訂正を許可すべき審判をするのが相当である。というのである。

よつて、按ずるに、家庭裁判所と地方裁判所とは、その構成・裁判権・その他の権限及び審理手続等において、法律上特にはつきりと区別されているから、家庭裁判所の審判と地方裁判所の確定判決との効果については、原則的に同一に論じ去るわけにはゆかない。しかして、旧民法上の分家無効は、親族法、相続法上の身分関係に重要な影響を持つこと、まことに、原審判の認定するとおりである。それで、若し、分家無効が確定すれば、その効力は分家した当時に遡つて発生することになるから、新民法上の分籍の戸籍法上の効果を生ずるに過ぎないのと異なり、親族法・相続法上の身分関係に影響することが多大であり、従つて、その取扱についても慎重な手続を経ることが要請されねばならない。さすれば、本件分家が、その申立のような理由が有るとないとを問わずその無効を理由とする戸籍訂正は、地方裁判所の確定判決を経て申請さるべきが相当であつて、当事者または利害関係人の異議の有無にかかわらず、家庭裁判所の審判では、これが訂正は許容されないものと解すべきである。

されば、抗告人の本件申立を却下した原審判は、結局相当であり、本件抗告は理由がないから、家事審判法第七条、非訴事件手続法第二五条、民事訴訟法第四一四条第三八四条を適用して、主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例